アフガニスタンの言語

 文明の十字路と呼べる場所は世界でもそう多くはない。しかしアフガニスタンは、中東や中央アジアに位置するという地理的状況を考えると、そう呼んで全く差し支えない。ギリシャ人やモンゴル人そしてフン族やアラビア人、トルコ系ムスリム王朝ガズニ朝などのような歴史上悪名高い伝説の侵略者たちはみな、幾度となく居留置を数多く建設しながらアフガニスタンの領域を通過して行った。

 そして各々の集団は、この地域の風景にそれぞれの軌跡を残していった。アレクサンダー大王は、サティ・バルザンの反乱のような暴動から人々を保護するため、安全な避難所を確保しようと、ヘラートなどの都市に軍事要塞を建設した。その一方で、この領域はシルクロードの一部を構成する交易路を大きく広げる地としての役割を担った。シルクロードというこの言葉自体は、 19 世紀のドイツの学者フォン・リヒトホーフェンが造り出した言葉である。シルクや象牙、金、そして珍しい動物などの貴重な品々とともに、この交易路は言語や文化においての影響をこの地域にもたらした。そして多くの商人たちは、この地域の民族構造をさらに複雑にしていったのである。

 アフガニスタンの地理的状況は、この国の人々の多様性を成しただけに留まらず、各々の民族集団の特性を色濃くすることにも影響した。外国人が何度も行き来する一方で、険しい山々や広大な渓谷は、外部の影響からこの国を防御した。ひとたび海路の利用が増加してシルクロードに取って代わると、ハザラ人のような、荒れ果てた中央高地に住む中央アジア系の民族は、ほぼ完全に外部と隔てた環境の中で暮らすことができた。このことは、外部世界が急速な変化を遂げている時代でさえ、習慣、言語、そして宗教(この場合かなり多くのシーア派)が損なわれずに残ることを可能にした。

 このような歴史を垣間見ると、今日のアフガニスタンに 44 以上もの言語が存在することも驚くべきことではない。公用語はパシュトゥー語とダリー語 ( ファルシー語の方言 ) の 2 つであり、ともにインド・ヨーロッパ系の言語である。アフガニスタンには 900 万人を超えるパシュトゥー語を話す人々がおり、主に、カンダハール、ジャララバード、パクティアらの都市で使われる。パシュトゥー語の方言には、東部地域で話されるギルザイ語、南部で話されるドゥッラーニー語がある。ギルザイ語を話す人々は主に遊牧民で人口の 24 %を占め一方でドゥッラーニー語を話すのは人口の 20 %に相当し、主として都会に住む人々である。東南部や東部では異なるが、カンダハールの言語が、主として南部のスンニ派ムスリムの標準語である。パシュトゥー語の最初の記録は、 16 世紀に Sheikh Mali’s conquest of Swat ( 首長マリのスワ‐ト征服の物語 ) を伝えたと信じられている。 17 世紀のパシュトゥーン人の詩人、ホシャル・ハーン・ハタック (Khushal Khan Khattak) は、今日ではアフガニスタンの国民的詩人の一人とされている。パシュトゥー語の歴史は、 2000 年以上もの間、近接した言語から取り入れてきたその語彙に現れている。最も古くに取り入れた言葉はギリシャからのものであり、紀元前 3 世紀のバクトリアによるギリシャ人支配に由来する。 8 、 9 世紀のイスラーム時代の始まりによって、パシュトゥー語はアラビア語やペルシャ語からも影響を受けた。さらに、インド亜大陸に地理的に近接していることから、数世紀に渡ってインドの言語から言葉を取り入れてきた。パシュトゥー語は、 1936 年、ザーヒル・シャー国王の布告によって国家言語の一つとなった。

 ダリー語を話す人々はさらに多様であり、タジク人、ハザラ人、ファルシワン人、そしてアイマク人もその中に含まれる。ダリー語のルーツはペルシャの言語であるファルシー語にあり、ファルシー語はインド・ヨーロッパ語族のインド・イラン語派で最も広く話されている。ダリー語はアフガニスタンの全人口の半分以上が話す言語であり、タジク人、ハザラ人、アイマク人、キジルバシュ人、ファルシワン人などの様々な民族が使用している。ハザラ人が話す方言には多くのトルコ語やモンゴル語の単語を含むが、アフガニスタンに暮らす人々の地理的状況により、ダリー語は、隣国イランで今日話されているファルシー語よりも純粋なペルシャ語の形であると考えられている。ダリー語は、 13 、 14 世紀というダリー語の詩の黄金時代とされる時期など、重厚な文学の歴史を持っている。ルーミ(バルフのマウラーナーとしても知られる)のマスナヴィは、ダリー語文学の、そしておそらくイスラーム文学全体の中でも最も重要ですばらしい作品だとされている。

 ダリー語やパシュトゥー語が学校で教えられビジネスで使われる言語である一方で、アフガニスタンには他に無数の言語が点在している。他のインド・ヨーロッパ系言語では、主に北東の最も孤立した谷間に見られる西ダルディック (ヌーリスタン語) 、バルーチ語など様々なインド語派やパミール諸語などの言語がある。アルタイ語族であるチュルク語系の言語も、全人口の約 11 %を占めるウズベク人やトルクメン人によって話されている。

 アフガニスタンの最も新しいデータでは、総人口は約 2,500 万人とされている。国内で膨大な数の言語が話されているという事実は、文明の十字路たる歴史的環境の証であり、アフガニスタン人の多様性を示している。 アフガニスタンの言語は、アラビア文字を適応させたものを使用して記述されるが、ヘブライ語と同じくセム語族でありインド・ヨーロッパ語族やアルタイ語族のどちらとも全く異なるアラビア語との関連はない。